第10話 祭りの夜・前編 (1)
リュウキが目を覚ました時には、窓の外はすでに真っ暗で夜空に星が輝いていた。
下を見ると祭りの明かりが町全体を照らしていて仄かに明るい。
(・・・祭りか)
祭りなど見るのはいつぶりか・・・少なくともこの3年は祭りとは縁のない生活だった。
ふとアラスやフィルがいた時の祭りを思い出す。
確かあの時は、パルシカに祭りの手伝いを頼まれたアラスに自分たちがくっついていったのだ。
パルシカがお祭用の衣装を用意してくれたこともあり、フィルやラナイは楽しみにしていた。
しかし、祭り当日にラナイは熱を出してしまい出かけることができず残念がっていた。
そんなラナイにフィルが言っていた。
――――よしじゃあ、来年もまた来よう!今度は4人でお祭楽しもうね。
その、来年が来ることは・・・・・・
リュウキは頭を振ってそれ以上考えるのをやめた。
一人でいるといろいろ考えてしまいそうなので、リュウキは下の居間に降りることにした。
ラナイとリルが買い物から戻ってきているかもしれない。
だが、階段を降りたところで思わず立ち止まる。
居間に山吹色の長い髪の女性が立っている。しかも、記憶の中にある祭りの時の姿だ。
(・・・フィル・・・!?)
茫然とリュウキはその後ろ姿を凝視した。
自分は夢でも見ているのか、それとも幽霊だろうか?
一歩一歩、その人物に近づく。その山吹色の髪の人は後ろを向いているので顔はわからない。
リュウキは手を伸ばし、その腕をつかむ。すると、
「うわ!?」
いきなり腕を掴まれたその人は驚いて振り返った。
「びっくりした、リュウキかー。脅かさないでよ」
「・・・リル?」
山吹色の髪かと思ったが、よく見ればそれより明るい金色だ。
初めて会ったときも見間違えることはなかったのに、今勘違いしたのは・・・
「なによ、幽霊見るような顔しないでよね。そんなに似合わない?」
「・・・なんだその格好?」
今のリルはいつも二つに分けて結んでいる髪を降ろして髪飾りをつけている。そして橙色を基調としたワンピースに白の薄い上着を羽織っていた。
「これ?パルシカが貸してくれたのよ。お古なんだって。ラナイも着てるわよ」
「・・・そうか」
本当に幽霊を見たのかと思ったリュウキだったわけだが、リルはそこまで考えは及ばない。ただ単にこの格好に驚いたと思ったようだ。
リルは目を据わらせてリュウキに詰め寄る。
「・・・ちょっとちょっと」
「なんだよ?」
リュウキは今のリルがフィルの姿と重なってなんとなく落ち着かない。
「ラナイの時まで同じ反応するんじゃないわよ?」
「・・・は?」
言われなくてもすることはないと思うリュウキだが。
「そんなに仰天されたら似合ってないんだって思っちゃうじゃない。私はいいわよ別に。普段からこういうの着ないから」
とか口では言いつつも、拗ねているように聞こえる。
「でもラナイはもともと可愛いし、よく似合ってるのよ。いい、似合ってるのよ!?」
「・・・・・・」
なぜかものすごい剣幕で強調されて、リュウキは訳が分からずに黙るしかなかった。